連載小説「潮風の行方」第二章 出会い 2話
認知症について、ゼミの教授が強調した話を思い出す。 「認知症は、しかるべき医療機関において、検査やX線など定められた方法で診察されるが、そこで医師より『認知症』(数種類あるが)と診断されない限り、物忘れが多くなってしま...
連載小説「潮風の行方」第二章 出会い 3話
工藤さんは、さっきの大騒ぎがまるで幻だったかのように、穏やかな表情で湯船に浸かっている。とても、気持ち良さそうだ。 俺はさっきの女性職員に一つ一つ丁寧に説明を受けながら、無事、殴られずに工藤さんの洗身介助を終えた。リ...
連載小説「潮風の行方」第二章 出会い 4話
レクとおやつの時間が終わりに近付き、窓の外が少し茜色になり始めた頃、工藤さんがようやく、職員に車椅子を押され、ロビーに姿を現した。なかなか姿を見せないから、どうしたのかと心配をしていた。最後になるなんて、またどこかで職...
連載小説「潮風の行方」第二章 出会い 5話
「ただいま」 昨日より少し遅く、家に着いた。 いつものように家に入ると、母親の姿が見えない。そう言えば玄関の土間に、母親のサンダルが無かった。 居間に入ると、隣のばあちゃんの家から、怒鳴り声が聞こえてきた。ばあちゃ...
連載小説「潮風の行方」第七章 別れ 3話
「この度は、うちの学生が貴施設にとんだご迷惑をお掛けしまして、誠に、失礼しました。深く、お詫びをいたします・・・」 かしこまって言って、巡回指導の先生が、頭を下げた。 「本当に、済みませんでした・・・」 母親も、頭を...