連載小説「潮風の行方」第七章 別れ 3話
「この度は、うちの学生が貴施設にとんだご迷惑をお掛けしまして、誠に、失礼しました。深く、お詫びをいたします・・・」 かしこまって言って、巡回指導の先生が、頭を下げた。 「本当に、済みませんでした・・・」 母親も、頭を...
連載小説「潮風の行方」第七章 別れ 2話
立ち上がった。 体は勝手に動き出し、無意識のうちに、上着をはおった。 一階に降りて行って、居間にあるばあちゃんの家の鍵を握ると、ばあちゃんが寝ている離れに、走った。 「こんな時間に、いったいどうしたんだい?」 夜...
連載小説「潮風の行方」第七章 別れ 1話
「ばあちゃん・・・ 書生の名前を、聞かせてくれないか・・・」 静寂を破って、単刀直入に、そう訊いた。 俺はベッドの横で、ばあちゃんの顔を見て、座っていた。 随分、小さな顔になったものだ。 目を閉じて、ゆっくりと呼...
連載小説「潮風の行方」第六章 介護士の想い 3話
「見て! 綺麗な富士山!」 春菜さんが、全開にされたキャンバストップから吹き込む風の音に負けないように、大きな声でそう言った。 国道一三四号線を、西湘バイパス方面に向かって走っていた。 相模川を渡る橋の上から、湘南...
連載小説「潮風の行方」第六章 介護士の想い 2話
本当に静かな、夜勤だった。 時計を見ると、夜中の二時前だった。 零時の排泄介助が終わり、二人の職員が二時間の仮眠に入って、ケアワーカールームには、俺と春菜さんしかいなかった。 お年寄りからのコールも鳴らず、しばら...