連載小説「潮風の行方」プロローグ
なんてこった・・・ 彼女に、ふられた。 しかも卒業の為の一番厄介なカリキュラム、「長期現場実習」の直前にだ・・・ 実習へのモチベーション、ガタ落ちだ。 俺は今、介護福祉大学の四年生で、卒業を半年後に控えている。 介護の学...
連載小説「潮風の行方」第一章 実習、始まる 1話
窓の外には、海が見えた。 風は無く、所謂「凪」と言うのだろうか。 みなもは鏡のように、平らに見えた。 鏡面に張り付いたようにぴたりと静止した大小さまざまな漁船が、気持ちよさそうに、浮んでいた。 今日みたいに穏やかに日は、...
連載小説「潮風の行方」第一章 実習、始まる 2話
フルネームは川島秀司。三十二歳。介護経験七年の、特養介護主任だ。 この施設では、主任が実習生を担当するらしい。 「さて、今日一日を振り返って、何か感じた事を話してくれるかい?」 唐突に、本題に戻した。 その言葉に...
連載小説「潮風の行方」第一章 実習、始まる 3話
十一月中旬にもなれば、六時も過ぎると、もうすっかり日も暮れて、薄手のコートでも欲しくなるくらいに肌寒い。この辺りでは、日中はまだまだ暖かい日が続くから、俺は上着を着ないで来てしまった。それを少し後悔しながら、施設から歩...
連載小説「潮風の行方」第一章 実習、始まる 4話
家の一部は付いているのに、ばあちゃんの家の玄関と、俺の家の玄関は、以外に離れている。と言うのも、玄関を出てすぐ右側に、こんな老人一人と母子一組が住んでいるだけの家には似つかわしくない、豪華な屋根付き車庫があるからだ。...