連載小説「潮風の行方」第六章 介護士の想い 2話
本当に静かな、夜勤だった。 時計を見ると、夜中の二時前だった。 零時の排泄介助が終わり、二人の職員が二時間の仮眠に入って、ケアワーカールームには、俺と春菜さんしかいなかった。 お年寄りからのコールも鳴らず、しばら...
連載小説「潮風の行方」第六章 介護士の想い 1話
「春菜先輩・・・、まだ寝ないって、叩くんです・・・」 いかにも体育会系の新人女性職員が、そう言いながらじいちゃんの車椅子を押して来た。 就寝準備の七時を、過ぎていた。 就寝介助に向かったが、拒否が激しく、ダメだ...
連載小説「潮風の行方」第五章 其々の思い 5話
しかしもう、母親のトラウマなどとっくに通り越した言い合いになっていた。 ばあちゃんは俯くと、肩を震わせて言った。 「そうすりゃ今頃、愛しい人のところに行ってたんだ・・・ 愛しい人と死に別れて、あたしがどんだけ苦しみ...
連載小説「潮風の行方」第五章 其々の思い 4話
「そう、特攻隊員だ。特攻隊はね、敵の迎撃を避けるために、夜半か明け方を目指して出撃したらしい。だから工藤さんは、愛する人や家族も置いて、夕日が沈んでいく西の海に向かって飛行した日を、思い出すのかもしれない・・・」 そう...
連載小説「潮風の行方」第五章 其々の思い 3話
いよいよ、本格的にケアプラン作成に取り掛かからなければならない。 実習は、三週目に入っていた。 一週目の最終日、金曜日の夕方に、ちょうど巡回訪問の先生が来て、川島さんと一緒にケアスタディーの対象者を工藤さんに決定し...